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東京高等裁判所 昭和51年(行コ)76号 判決 1980年10月29日

第七六号事件控訴人・第七七号事件被控訴人(被告) 東京地方裁判所 最高裁判所

第七七号事件控訴人(原告) 笹沼光男 外九名

第七六号事件被控訴人(原告) 木村恵子 外三名

第七七号事件被控訴人(被告) 最高裁判所事務総長 東京高等裁判所

主文

一  原判決中、第一審被告東京地方裁判所の敗訴部分を取消す。

二  第一審原告木村惠子、同木村千惠、同木村和惠及び同木村美惠の第一審被告東京地方裁判所に対する請求をいずれも棄却する。

三  第一審原告笹沼光男、同有村一巳、同田戸美、同白沢守、同田中秀典、同石渡智之助、同小原孝夫、同堀部基進、同岡野信一及び同野宮明雄並びに第一審被告最高裁判所の本件各控訴をいずれも棄却する。

四  訴訟費用中、第一審原告木村惠子、同木村千惠、同木村和惠及び同木村美惠と第一審被告東京地方裁判所との間に生じた部分は、第一、二審とも右の第一審原告らの負担とし、その余の第一審原告ら並びに第一審被告最高裁判所の本件各控訴によつて生じた部分は、これら第一審原告ら並びに第一審被告最高裁判所の各負担とする。

事実

第一当事者双方の申立

(昭和五一年(行コ)第七六号事件)

一  控訴の趣旨

1  原判決中、第一審被告東京地方裁判所及び同最高裁判所敗訴の部分を取消す。

2  第一審原告木村惠子、同木村千惠、同木村和惠及び同木村美惠の請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも右の第一審原告らの負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

1  本件控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は、第一審被告東京地方裁判所及び同最高裁判所の負担とする。

(昭和五一年(行コ)第七七号事件)

一  控訴の趣旨

1  原判決中、第一審原告笹沼光男、同有村一巳、同田戸美、同白沢守、同田中秀典、同石渡智之助、同小原孝夫、同堀部基進、同岡野信一及び同野宮明雄敗訴の部分をいずれも取消す。

2  第一審被告最高裁判所事務総長が昭和三四年一月二六日付をもつてした第一審原告笹沼光男及び同有村一巳に対する戒告の懲戒処分、第一審被告東京高等裁判所が同日付をもつてした第一審原告田戸美に対する二か月間俸給月額の一〇分の一づつ減給の懲戒処分(但し、判定により修正されたもの。)、第一審被告東京地方裁判所が同日付をもつてした第一審原告小原孝夫、同堀部基進及び同岡野信一に対する戒告の懲戒処分、第一審被告最高裁判所が昭和四二年九月一三日付をもつてした第一審原告白沢守に対する三か月間俸給月額一〇分の一づつ減給の懲戒処分(但し、判定により修正されたもの。)、第一審原告田中秀典、同石渡智之助及び同野宮明雄に対する戒告の懲戒処分(但し、判定により修正されたもの。)を、いずれも取消す。

3  訴訟費用は、第一、二審とも第一審被告らの負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文第三、四項と同旨

第二当事者双方の主張並びに証拠関係

次に附加するほかは、原判決の事実摘示と同一(但し、原判決一五枚目表二行目から九行目までの全文を削除し、同一〇行目冒頭に「三」とあるのを「二」と改める。)であるから、これを引用する。

一  第一審原告らの主張

第一審原告白沢守、同田中秀典、同石渡智之助、同小原孝夫及び同岡野信一の非違行為とされているもののうち、車庫附近における運転手に対する就労妨害行為(原判決の別紙「理由」中、各論第一、一、(一)、同二、(一)、同三、(一)、同九、(一)及び同一一、(一))が存在しなかつたことは、すでに述べたとおりであるから、以下において、本件職場大会の実施及びこれにまつわる第一審原告木村惠子、同木村千惠、同木村和惠及び同木村美惠(以上の第一審原告らを、以下単に「第一審原告木村ら」という。)をのぞく第一審原告ら及び訴外木村広志(以下「訴外木村」又は「訴外人」という。)の行動が第一審被告らの主張する非違行為に該当しない所以並びに懲戒権濫用についての従来の主張を更に補足敷衍する。

1  出勤猶予時間内における組合活動の適法性

(一) 本件職場大会が出勤猶予時間(当時における出勤猶予時間は、東京高裁においては勤務開始時刻の午前八時三〇分から午前九時三〇分まで、東京簡裁を含む東京地裁においては同様午前九時二〇分までと、それぞれ定められていた。)内に行われたもので、当時全司法に所属する職員が出勤猶予時間内に組合活動を行うことを当局が容認していたことは、すでに述べたとおり(原判決九枚目裏四行目から一〇枚目裏四行目まで)であるが、これを詳述すれば、昭和二九年一二月三日及び四日の両日にわたり全司法の在京及び大阪の各支部が官公労第四次闘争として午前八時四、五〇分までに及ぶ集団登庁を実施し、昭和三二年三月二七日に全司法広島支部が賃上要求のため午前八時五〇分から午前九時すぎにかけて一斉登庁を実施したにかかわらず、当局は、これに参加した職員に対して何らの懲戒処分を加えなかつたし、午後の勤務開始時刻の午後一時すぎに及ぶ組合活動についても、昭和三二年三月一四日に全司法が賃上要求のため午後一時一五分に及ぶ中央総決起大会を実施し、昭和三三年九月一五日に全司法在京支部が勤評反対のため午後一時二〇分に及ぶ職場大会を実施したのに、当局は、その参加職員に対して懲戒処分を加えなかつたのである。以上のように、本件職場大会が行われた当時においては、職員が出勤猶予時間内に組合活動を行うことはもとより、午後の勤務時間にくい込む組合活動を行うことも、すべて当局によつて容認され、かかる組合活動に参加した職員に対し、それを理由に懲戒処分をしないという労働慣行がすでに確立されていたのである。従つて、出勤猶予時間内における本件職場大会に関係した第一審原告らの行為は、何らの違法性もないし、仮に本件職場大会が出勤猶予時間を若干超過したとしても、それを理由に懲戒処分を課することは、懲戒権の濫用として許されるものではない。

(二) また職員が、出勤猶予時間内に出勤した場合、直ちにその職務に従事すべき義務を負うものであるとしても、本件職場大会当日右大会に参加した第一審原告らは、いずれもその勤務する裁判所の庁舎内に立入らず、従つて、いまだ出勤していなかつたのであるから、そもそも、その職務に従事すべき義務が発生していなかつたのであつて、本件職場大会の当日第一審被告らが主張するように職場復帰命令等が発せられ、右の第一審原告らがこれに従わなかつたとしても、これらの第一審原告らに職務命令違反があつたとすることはできないのである。

2  国家公務員法九八条五項の規定(昭和四〇年法律六九号による改正前の規定、以下同じ。)の合憲性

国公法九八条五項の規定が憲法二八条に違反するものとして無効であること、仮にそうでないとしても国公法の右規定は限定的に解釈すべきものであり、かく解釈した場合本件職場大会の開催が右の規定によつて禁止される争議行為に該当しないことは、すでに述べたとおり(原判決一一枚目裏四行目から一三枚目表五行目まで)であるが、その理由を更に詳述すれば、

(一) 国公法九八条五項の規定を全面的に合憲とする所説がその根拠として掲げるところは、要するに、(1)公務員の労働基本権は、おのづから勤労者をも含めた国民全体の共同利益の見地からする制約を免れない、(2)非現業国家公務員については、その地位の特殊性と職務の公共性に鑑みるとき、その労働基本権に対し必要やむを得ない限度の制限を加えることは十分合理的な理由がある、(3)公務員の勤務条件の決定の面を見ても、私企業の場合と異るものがあり、その決定は、民主国家のルールに従つてなされるべきものであつて、争議行為の圧力による強制を容認する余地は全くない、(4)私企業においては、争議行為に市場の抑制力が働くのに、公務員の場合には、そのような市場の機能が作用する余地がない、(5)公務員の生存権保障の趣旨から、その労働基本権の制約に見合う周到な代償措置の制度が設けられている、以上の五点に尽きるのである(最高裁大法廷昭和四八年四月二五日判決、刑集二七巻四号五四七頁)が、私企業に雇用された労働者が争議行為を行つた場合においても国民全体の共同利益が侵害されることは避けられないのであつて、公務員の争議行為のみを特別視することは許されないのみならず、公務員の争議行為は、かえつて国民の大多数たる私企業の労働者にも共同の利益をもたらすのであつて、この観点からすれば、(1)の国民全体の共同利益論がその理由とならないことは明らかであるし、(2)の公務員の地位又は職務の特殊性又は公共性も、公務員は全体の奉仕者ではあるが、労働の対価として賃金を得ている点においては、私企業の労働者と何ら異る点はなく、公務員にも昭和二一年三月から昭和二二年七月までの間争議権が附与されていたことをも考え合わせれば、その理由とならないことは明らかである。(3)の公務員の勤務条件の決定の特殊性については、公務員の勤務条件が法律によつて定められるものではあるが、公務員が、その勤務条件の決定権を持つ点において私企業の経営者と同視されるべき国会又は内閣に対して争議行為を行うことは憲法二八条が当然に予定しているところであつて、これをもつて何ら異とするには足りないし、また、かかる公務員の争議行為が法令改正の要求を伴う結果、これを政治ストとして違法視する反論があり得るとしても、右の争議行為の対象となるのは、国会等が帯有する公務員に対する使用者、経営者としての側面であつて、国民の代表者としての側面をその対象とするものではないのであるから、私企業の労働者が行う争議行為との間に何ら本質的な差異はないし、(4)の市場の抑制機能の有無についても、公務員といえども世論を無視して争議行為をすることができないのは当然であるし、また、その結果としての賃金カツトもあり得るのであつて、公務員の争議行為にもおのづからなる限度があるから、この点においても私企業の労働者の場合と異るところはない。(5)の代償措置についても、人事院制度はあるが、その勧告には何らの強制力がなく、また勧告自体が代償的機能を果していないことは、すでに公知の事実である。

以上のとおりであつて、国公法九八条五項の規定を合憲とする所説が全くその根拠を欠くものであることは明らかであり、このことは、前記最高裁判決後においても、国公法の右規定と同旨の地公法三七条一項、公共企業体等労働関係法一七条一項の各規定につき、これを正面から違憲、無効と断ずる下級裁判所の裁判例が続出していることによつても裏づけられるのである。

(二) 警職法の一部を改正する法律案の内容及び右の改正法が国会において可決成立すれば、組合員の経済的社会的地位の向上を図ること等を目的として組織された全司法の活動自体が不能となることは、すでに述べたところ(原判決九〇枚目裏九行目から一二行目まで及び九一枚目裏二行目から九二枚目裏四行目まで)によつて明らかであり、全司法に所属する第一審原告木村らをのぞく第一審原告らが本件職場大会に参加したのは、右の法律案に反対することによつて裁判所職員臨時措置法によつて準用される国公法一〇八条の二、三項所定の職員の団結権及び同法一〇八条の五、一項所定の団体交渉権を擁護しようとしたにほかならないのであつて、その目的自体も正当であつて、これを政治的行為と評価することは許されないものであるし、その手段、程度及び結果のいずれの面を見ても、それが社会的に容認され得る合理的範囲を出るものではなかつたことは、すでに述べたとおりであるから、仮に前記の限定解釈論をとつたとしても、本件職場大会の開催が国公法九八条五項の規定が禁止する争議行為に該るとすることはできないのである。

3  懲戒権の濫用

(一) 原判決は、裁判所及び裁判所職員の地位の特殊性を強調し、職員は、その行動が本来政治的性格を有する機関である国会、内閣に勤務する職員に比し著しく制限されるものとし、第一審原告木村らをのぞくその余の第一審原告らの本件職場大会の実施及び同大会への参加並びにそのための説得、勧誘行為は、たんに国公法九八条五項の規定に違反するだけではなく、法の厳正な遵守、適用により国民の権利を擁護し、社会秩序の維持を使命とする裁判所に対する国民の期待に反し、その政治的中立性につき誤解や疑惑を与えかねない性質を帯びるものであつて、右第一審原告らの関与した各行為の違法性及び責任は軽いものではない(原判決五七枚目表一〇行目から五九枚目裏二行目まで)とであつて、本件懲戒処分或いは判定も右と同趣旨に出るものと推認されるのであるが、国会及び内閣に勤務する職員に適するの用又は準用される国公法及び人事院規則は、裁判所職員に対しても、裁判所職員臨時措置法及び裁判所職員に関する臨時措置規則(昭和二七年最高裁規則一号)によつて等しく準用されているのであつて、裁判所職員を国会等に勤務する職員を区別して扱うべき実定法上の根拠は存在しないのであるから、裁判所職員であることのみを理由に右の第一審原告ら及び訴外木村を区別して扱うことは、憲法一四条の規定に違反して許されない。

(二) 以上に述べたところ及びすでに述べた「警察官職務執行法改正反対運動の経緯と趣旨」(原判決九二枚目裏末行から九四枚目表末行まで)を考え合わせれば、右の第一審原告ら及び訴外木村に対して懲戒処分をもつてのぞむことは酷に失するのであつて、本件懲戒処分は、いずれも懲戒権の濫用として許されない。

二  第一審被告らの主張

1  出勤猶予時間内における組合活動の違法性

(一) 出勤猶予時間が本件の当時午前八時四五分までであつたこと及びその法律的な性質については、すでに述べたとおりである(原判決一六枚目表二行目から同裏二行目まで)から、右制度の設けられた趣旨からいつて、職員が出勤猶予時間内に組合活動を行うことが適法として容認されることなどあり得ない。

(二) 第一審原告らは、本件職場大会に参加した職員は、いまだ出勤していなかつたから、当局の発した職場復帰命令に従う義務がなかつた旨主張するのであるが、本件懲戒処分は、第一審原告木村らをのぞく第一審原告らが右職場大会に参加して他の裁判所職員や訴訟関係人の入庁を妨害した行為を対象としたものであり、また当局が出勤時刻経過後に庁舎玄関附近にいる職員に対し、その職務につくよう命令できることは当然であるから、この点に関する右第一審原告らの主張は、いずれも理由がない。

2  国公法九八条五項の規定の合憲性

国公法九八条五項の規定及びこれと同旨の地方公務員法三七条一項並びに公共企業体等労働関係法一七条一項の各規定が憲法二八条の規定に違反しないことは、前記最高裁大法廷昭和四八年四月二五日判決以後の最高裁判例によつて確定し、すでに限定的解釈論を採用する余地がないことも明らかであるから、第一審原告らのこの主張が理由がないことも明らかである。

3  懲戒権の濫用の主張について

(一) 懲戒権の行使は、それが社会観念上著しく妥当を欠き、それが懲戒権者に附与された、懲戒処分をすべきかどうか、懲戒処分をするについていかなる種類、程度の懲戒を課すべきかについての裁量権の目的を逸脱したと認められない限り、懲戒権者に附与された裁量権の範囲内にあるものとして違法とはならないというべきである(最高裁第三小法廷昭和五二年一二月二〇日判決、民集三一巻七号一一〇一頁)が、これを本件について見るに、本件職場大会は、警職法改正反対という政治的意見表明のために開催された違法性の強い団体行動であり、しかも、第一審原告木村らをのぞく第一審原告ら及び訴外木村は、裁判所職員として自ら法を守ることに厳正でなければならず、裁判所の政治的中立性に留意しなければならない立場にあつたにかかわらず、上司の警告を無視し、あえて本件職場大会を計画、実施し、自らも参加したものであつて、その行為の責任は重大であり、殊に、右の各行為が公務員の争議行為が違法であることにつき疑のなかつた時期に行われたことを考慮すれば、本件懲戒処分が第一審被告らに附与された裁量権の範囲内にあることは明らかであつて、社会観念上も妥当なものである。

(二) 本件職場大会は、全司法本部中央執行委員会の指令(乙第一〇号証)によつて実施されたものであるが、訴外木村は、前記のように昭和三三年一一月五日当時全司法本部中央執行副委員長兼財政部長であつただけではなく、右のように組織上第一審原告木村らをのぞく、その余の第一審原告ら以上に他の組合員に対し影響力を及ぼし得る地位にありながら、他の組合員を説得して本件職場大会に参加させたものであるから、右の第一審原告ら以上に重い処分がなされたのは当然であり、訴外木村の死亡により審査手続が終了したとされなければ、第一審被告東京地方裁判所が同人に対してした処分が軽減されたとはいえないし、また審査手続において第一審原告木村らをのぞく第一審原告ら及びその他の請求者のうちに原処分を修正軽減された例があるからといつて、訴外木村に対する本件懲戒処分が裁量権の濫用になるものでもないことは明らかである。

(三) よつて、第一審原告らのこの主張は、すべて理由がない。

4  第一審被告最高裁判所がした訴外木村の審査請求に対する判定の適法性

職員の不利益処分に対する審査手続は、行政手続の一環をなすものであるから、当然に民事訴訟法が準用されることにはならないし、仮に民事訴訟に準じて審査手続を施行するとしても、被処分者死亡後は、当該処分の当否の判定に関連して審査手続をそのまま続行する実益が存在し、しかも特に審査手続の承継を希望する相続人が存在する場合に限つて審査手続を続行すれば足りるものと解すべきところ、訴外木村は、本件懲戒処分後昭和三五年七月三〇日まで引続き組合専従者の地位にあり、無給休職者としての身分扱を受けていたのであるから、審査手続における本件懲戒処分の取消等によつて俸給請求権を回復する余地がなかつたことは明らかであるばかりでなく、訴外木村の死亡に際しては、その旨が代理人から最高裁公平委員会に届出られたのみで、何人からも訴外木村に関する審査手続を承継する旨の申出がなされていないのである。かかる経緯に徴すれば、第一審被告最高裁判所が訴外木村に関する審査手続につき「請求者木村広志に係る審査手続は、昭和三七年八月二四日同請求者の死亡によつて終了した。」旨判定したことは適法であつて、そこには何ら違法の廉はない。

三  証拠関係<省略>

理由

第一第一審原告木村らの判定取消請求について

一  第一審被告東京地方裁判所が、裁判所職員であつた訴外木村に対して昭和三四年一月二六日付をもつてした停職二か月の懲戒処分につき、訴外人は、第一審被告最高裁判所に対し、その審査を請求したが、右審査手続継続中の昭和三七年八月二四日に死亡したこと、第一審原告木村らは、訴外人の相続人であること及び第一審被告最高裁判所が右の懲戒処分の取消を求める権利は、訴外人の国家公務員としての地位に基づく一身専属的な権利であるから、前記審査手続は、訴外人の死亡によつて終了したとして、昭和四二年九月一三日付をもつてその旨の判定をしたこと、以上の事実は当事者間に争いがなく、右判定書の正本が昭和四二年一二月四日に第一審原告木村らに送達されたことは、弁論の全趣旨によつて明らかである。

二  そこで右判定の適否について検討するに、裁判所職員臨時措置法によつて準用される国公法及び裁判所職員に関する臨時措置規則(昭和二七年最高裁規則一号)によつて準用される人事院規則一三―一には、もともと本件のように請求者が審査手続の継続中に死亡した場合における請求者の地位の承継を認める規定は存在せず、そのまま現在に及んでいるのであつて、この限りにおいて見れば、法律は、右のような場合相続人による請求者の地位の承継を認めない趣旨であると解すべき余地もないではないのであるが、懲戒処分を受けた公務員がその取消訴訟の係属中に死亡した場合には、その取消判決によつて回復されるべき当該公務員の俸給請求権等が存在する限りにおいて、この俸給請求権等を相続する者が右訴訟を承継する(最高裁第三小法廷昭和四九年一二月一〇日判決、民集二八巻一〇号一八六八頁)のであるし、懲戒処分の審査請求が審査庁に対する不服の申立によつて違法又は不当な原処分の排除、是正を求める制度として、懲戒処分の取消訴訟とともに公務員に保障されているものであることを考えれば、公務員が審査手続の継続中に死亡した場合を右訴訟における場合と別個に扱わなければならない理由はないし、またそのように解すべき合理的な根拠もないのであるから、相続によつて原処分の排除、是正を求める利益を承継した者は、当然に審査手続における請求者の地位を承継するものと解するのが相当であり、右請求者の地位の承継は、相続に由来するものである以上、相続人からその旨を審査庁に申出たかどうかにかかわらないものと解するのが相当である。従つて、審査庁としては、審査手続の継続中に請求者が死亡し、しかもその相続人が存在する場合においては、原処分が取消されたとしても、その結果請求者に回復されるべき俸給請求権等が存在しないことが明白であるなどの特段の事情が存在しない限り、類似の制度に関する行政不服審査法三七条の規定を類推適用して、請求者の地位がその相続人によつて承継されたものとして扱うのが相当であつて、相続人から承継の申出がなかつたからといつて、その一事により審査手続が当然終了したものとすることは許されないというべきである。

三  そして、以上に述べたところに従い、前記特段の事情の有無について検討して見ると、本件懲戒処分が昭和三四年一月二六日頃訴外人に告知されてその効力を生じたことは、弁論の全趣旨によつて明らかであり、訴外人が右の昭和三四年一月二六日頃から昭和三五年七月三〇日まで職員組合の専従者として、無給休職者としての身分上の扱いを受けていたものであることは、第一審原告木村らの明らかに争わないところであつて、この事実によれば、たとえ審査の結果本件懲戒処分が取消されたとしても、その結果回復されるべき訴外人の本件懲戒処分による停職期間中の俸給請求権等が存在しなかつたことは明白であるが、本件懲戒処分が訴外人の復職した昭和三五年七月三一日からその死亡した昭和三七年八月二四日までの復職時の俸給額決定その他を通じ俸給請求権等の財産上の権利に全く影響がなかつた等の、特段の事情の存在を肯認すべき資料は、本件の全証拠を検討して見ても、これを見出すことはできない。

四  そうして見ると、第一審被告最高裁判所がした本件の判定は違法として取消を免れないものであつて、第一審原告木村らの右の第一審被告に対する本訴請求は正当として認容すべきものであり、これと趣旨を同じくする原判決は相当であるから、右第一審被告の本件控訴は、これを棄却することとする。

第二第一審原告笹沼光男、同有村一巳、同田戸美、同白沢守、同田中秀典、同石渡智之助、同小原孝夫、同堀部基進、同岡野信一及び同野宮明雄並びに第一審原告木村らの本件各懲戒処分の取消請求について

当裁判所も第一審原告木村らをのぞく第一審原告らに対する本件の各懲戒処分には違法の点はなく、その取消を求める右の第一審原告らの本訴各請求は、いずれも失当として棄却すべきものであり、第一審原告木村らの訴外木村にかかる本件の懲戒処分の取消を求める本訴請求も右と同様失当として棄却すべきものと判断するのであるが、その理由は、次に附加、訂正するほかは、原判決の理由説示中、第一審原告ら及び訴外木村関係部分(但し、原判決二一枚目裏一行目から六一枚目表一〇行目まで)と同一(原判決二五枚目表七行目に「表通門」とあるのを「表通用門」と、同五四枚目表八行目に「訴外木村を除くその余の被処分者」とあるのを「訴外木村及び第一審原告(第一審原告木村らを除く)」と、それぞれ改める。)であるから、これを引用する。当審で新たに取調べた証拠のうちこの認定に副わない部分は採用しない。

(原判決の訂正)

一  昭和三三年一一月五日の本件職場大会等の状況

(1) 車庫附近における状況

原判決二六枚目裏一行目の「大筋において」を削除し、同四行目冒頭の「らが」の次に「全司法組合員らを排除して自動車運転手を就業させるべく」を、同五行目の「控室に上り、」の次に「その場において右課長らに対し執拗に話合を迫り、第一審原告白沢は、運転手全員が控室から降りて車庫前広場に集つた際、同所において約三分間にわたり」をそれぞれ挿入し、同七行目から八行目にかけての「原告堀部および原告岡野」を削除し、同一〇行目の次行以下に左を加える。

「なお、第一審原告岡野が当日早朝車庫附近にきていたことは前記のとおりであるが、その際同第一審原告が積極的に就業妨害行為をしたこと及び右のように車庫附近にいあわせて、前記の第一審原告の就業妨害行為を助勢し又はその他の運転手の就業に影響を及ぼすような行動をとつたことについては、これを確認できる証拠がない。」

(2) 本館正面玄関前における状況

原判決二七枚目裏六行目の「状況」の次に「及び職場復帰命令、解散命令が発出、伝達された状況」を挿入し、同行の「大筋において」を削除し、同裏七行目の「第四」の次に「(但し、その四行目(原判決一〇五枚目表四行目)以下の部分をのぞく。)」を挿入し、同行の括弧内に「但し」とあるのを「なお」と改め、同二八枚目裏三行目の「参加して」の次に「正面玄関前の階段附近に横に二列又は三列位に並び時にはスクラムを組んだため、裁判所職員又は訴訟関係人が正面玄関から裁判所庁舎内に立入ることが著るしく困難な状態となつて」を挿入し、右二八枚目裏三行目の次行以下に左を加える。

「右の事実によれば、右認定の第一審原告田戸、同白沢、同田中、同小原、同岡野及び同野宮の行為によつて裁判所職員又は訴訟関係人の入庁が妨害されたことは明らかであるし、また、右の職場復帰命令及び解散命令が発せられたにかかわらず、右の第一審原告らがこれに従わなかつたことは、前記認定の事実に照らしてこれを認めるに充分である。なお、右の第一審原告らは、これらの職務命令が発出されたこと自体を不知をもつて争い、前記甲第四九号証、第一審原告田中本人の原審並びに当審における各供述、第一審原告白沢、同岡野本人の当審における各供述中には、この主張に副う部分も存在するのであるが、前記甲第三九号証、第四四号証、原審における第一審原告白沢、同野宮本人、原審並びに当審における第一審原告小原本人の各尋問結果によれば、第一審原告白沢、同野宮、同小原は、これらの職務命令が前記認定のように本館正面玄関前にいた職員に伝達された際にこれを了知したことが認められるのであつて、この事実と前記認定の職務命令伝達の手段、方法並びに前記乙第一六号証によつて認定し得る事実を総合すれば、本件職場大会に参加していた前記の第一審原告らのすべてが右の職務命令の伝達と同時にその内容を了知したものと認めるのが相当であつて、この認定に反する前掲の各証拠は、いずれも採用することができない。」

(3) 本館裏玄関附近における状況

原判決二九枚目表三行目の「骨子において」を削除し、同七行目の「勧誘していたこと」の次に「及びその際訴外木村は、右説得、勧誘に当つていた全司法の組合員に対して『一人も中に入れるな。出ていつた者も入れるな。』など申向けて、登庁中の裁判所職員が庁舎内に立入ることを極力妨害するよう指導、督励したこと」を挿入する。

(4) 原判決三一枚目表六行目の「原告堀部および原告岡野」を削る。

(5) 当時の勤務開始時刻及び出勤猶予時間

原判決三五枚目裏八行目の「これによつて最高裁規則による」から同末行の「するものではなく、また、」までを「出勤猶予時間は、前記認定のとおり最高裁判所規則によつて定められた午前の勤務開始時刻到来後、所定の時間内に出勤して出勤簿に押印した職員については、これを遅刻者としないという事実上の取扱にすぎないのであるから、出勤猶予時間の設定自体が、前記認定の職員の勤務時間を変更して右時間内における職員の勤務を免除する趣旨に出たものでないことは当然である。従つて、職員は、出勤猶予時間内においてもその職務に従事すべき義務を負担していることに変りがないのであつて、職員のこの義務負担の関係は、その性質上、職員が出勤猶予時間内に現実に出勤したかどうかによつて異るところはないのである。そして、それだからこそ、」と改め、同三六枚目表一〇行目から末行にかけての「この時間内に出勤した職員は直ちにその職務に従事する義務があるのであり、」を削り、右末行に「その者」とあるのを「職員」と改める。

二  第一審原告らの行為と国公法の適用

原判決三七枚目裏一行目から四五枚目裏末行までの第一審原告ら及び訴外木村関係の説示部分の全部を次のとおり改める。

1 第一審原告笹沼が前記認定のとおり東京簡易裁判所玄関附近において本件職場大会に参加をするよう説得、勧誘した行為は、裁判所の活動能率を低下させる怠業的行為として裁判所職員臨時措置法によつて準用される国公法(以下、単に「国公法」という。)九八条五項前段の規定に違反し、同法八二条一、三号の各規定に該当する。

2 第一審原告有村が前記認定のとおり、表通用門附近において本件職場大会に参加するよう説得、勧誘した行為は、右同様の怠業的行為として国公法九八条五項前段の規定に違反し、同法八二条一、三号の各規定に該当する。

3 第一審原告田戸が前記認定のとおり、

(一) 本件職場大会に参加し、裁判所職員及び訴訟関係人らの入庁を妨害した行為は、前同様の怠業的行為として国公法九八条五項前段の規定に、

(二) その際発せられた職務命令に従わなかつた行為は、同条一項の規定に、

それぞれ違反し、同法八二条一ないし三号の各規定に該当する。

4 第一審原告白沢が前記認定のとおり、

(一) 車庫附近において裁判所の自動車運転手の就業を妨害した行為及び本件職場大会に参加して指導的な行動をとり、裁判所職員及び訴訟関係人らの入庁を妨害した行為は、いずれも前同様の怠業的行為として国公法九八条五項前段の規定に、

(二) 本件職場大会の際発せられた職務命令に従わなかつた行為は同条一項の規定に、

それぞれ違反し、同法八二条一ないし三号の各規定に該当する。

5 第一審原告田中が前記認定のとおり、

(一) 車庫附近において裁判所の自動車運転手の就業を妨害した行為及び本件職場大会に参加し、裁判所職員及び訴訟関係人らの入庁を妨害した行為は、いずれも前同様の怠業的行為として国公法九八条五項前段の規定に、

(二) 本件職場大会の際発せられた職務命令に従わなかつた行為は同条一項の規定に、

それぞれ違反し、同法八二条一ないし三号の各規定に該当する。

6 第一審原告石渡が前記認定のとおり、

車庫附近において裁判所の自動車運転手の就業を妨害した行為及び表通用門附近及び東京簡易裁判所玄関附近において本件職場大会に参加するよう説得、勧誘した行為は、いずれも前同様の怠業的行為として国公法九八条五項前段の規定に違反し、同法八二条一、三号の各規定に該当する。

7 第一審原告小原が前記認定のとおり、

(一) 車庫附近において裁判所の自動車運転手の就業を妨害した行為及び本件職場大会に参加し、裁判所職員及び訴訟関係人らの入庁を妨害した行為は、いずれも前同様の怠業的行為として国公法九八条五項前段の規定に、

(二) 本件職場大会の際発せられた職務命令に従わなかつた行為は、同条一項の規定に、

それぞれ違反し、同法八二条一ないし三号の各規定に該当する。

8 第一審原告堀部が前記認定のとおり、本館裏玄関附近において本件職場大会に参加するよう説得、勧誘した行為は、前同様の怠業的行為として国公法九八条五項前段の規定に違反し、同法八二条一、三号の各規定に該当する。

(なお、第一審原告堀部については、原処分においては、車庫附近における就業妨害行為もその処分事由の一つとなつていたことが、同第一審原告の主張自体によつて明らかであるが、右の車庫附近における就業妨害行為は、同第一審原告にかかる審査請求の判定において処分事由から削除され(原判決の別紙「理由」の各論第一の十(原判決一一一枚目裏一一行目以下)参照)、第一審被告東京地方裁判所も、本訴において、これを第一審原告堀部の処分事由として主張していない(原判決一五枚目裏六行目から七行目にかけての括弧内の記述参照)ことは明らかである。)

9 第一審原告岡野及び同野宮が、いずれも前記認定のとおり、

(一) 本件職場大会に参加し、裁判所職員及び訴訟関係人らの入庁を妨害した行為は、前同様の怠業的行為として国公法九八条五項前段の規定に、

(二) その際発せられた職務命令に従わなかつた行為は、同条一項の規定に、

それぞれ違反し、同法八二条一ないし三号の各規定に該当する。

10 訴外木村が前記認定のとおり、本館裏玄関附近及び表通用門附近において本件職場大会に参加するよう説得、勧誘した行為は、いずれも前同様の怠業的行為として国公法九八条五項前段の規定に、またその際職員らの入庁を妨害するよう指導、督励した行為は、前同様の怠業的行為をあおつたものとして同条五項後段の規定に、それぞれ違反し、同法八二条一、三号の各規定に該当する。」

三  本件職場大会参加の違法性

原判決五一枚目裏五行目の「他方」以下五四枚目表三行目の「行動に出ることは、」迄の全文を「そうであるとすれば、国家公務員が憲法擁護義務を履行するについて、国家公務員たる資格に基づく適法な規律に違反してよいということにはならないのであつて、従つて第一審原告ら被処分者が憲法擁護義務の履行と称して警職法改正に反対の意見表明を行うとしても、右の規律である国家公務員法上の義務に違反する方法によつてこれを行うことは、」と訂正する。

四  第一審原告木村らをのぞく第一審原告ら及び訴外木村に対する本件各懲戒処分の正当性

原判決五八枚目表九行目の「また、」以下五九枚目表七行目の「いわざるをえない。」迄の全文を削除し、同六〇枚目表五行目の「そして、」の次に「第一審原告木村らをのぞく第一審原告らについて見ると、」を、同六〇枚目裏三行目の「解しがたい。」の次に「なお、第一審原告堀部については、原処分において処分事由の一つとされていた同第一審原告の車庫附近における怠業的行為が審査請求の判定において処分事由から除外され、また第一審原告岡野については、原処分及び審査請求の判定において処分事由とされていた車庫附近における怠業的行為の存在が認定し得ないものであることは前記のとおりであるが、右の第一審原告らのその余の非違行為の態様に鑑みれば、右のような事情があつたからといつて、そのことによつて直ちに以上において述べた結論が左右されるものとすることはできない。」を挿入し、右三行目の次に行を改め左を附加する。

「次に訴外木村について見ると、以上において判示した事実関係によれば、第一審原告木村をのぞく第一審原告らが、いずれも全司法の在京支部又はその分会の役職者にすぎなかつたのに対し、訴外木村は、組合専従者として全司法本部中央執行副委員長兼財政部長の役職にあつたものであり、右の第一審原告らを含む全司法組合員による本件職場大会の開催並びにこれに附随する前記認定の一連の行動が警職法の一部を改正する法律案の可決成立に反対する警職法改正反対国民会議による第四次統一行動の一環として行なわれたものであつたにしても、その現実の実施を策定し指令したのは全司法本部であつて、訴外木村がこの決定に組合三役として参画していることは疑う余地がないのであつて、すでにこの点において訴外木村の責任は、前記の第一審原告らの責任と異るものというべきであるのみならず、前記認定の訴外木村の非違行為の態様及び原審証人岡田昌雄の証言によつて成立を認める乙第三二号証等の記録上認め得る本件職場大会当日における訴外人の言動を総合して考えれば、訴外人が当日の現場の最高責任者又はこれに準ずる者として組合員に対する指揮に当つていたものと推認するにかたくないのであつて、この点においても、訴外木村の責任は、前記の第一審原告らと同等又はこれに準ずるものとして評価することはできないのである。そして、以上に述べた訴外木村の責任と前示各行為の違法性を考えると、訴外人に対する本件懲戒処分の選択は、第一審被告東京地方裁判所の裁量権の範囲を逸脱したものとは認められないのであつて、他に右認定を覆えして第一審原告木村らの懲戒権濫用の主張を認めるに足る証拠はない。」

(当審における第一審原告らの補足的主張に対する判断)

一  出勤猶予時間内における組合活動の適法性

1 第一審原告らは、本件職場大会が実施された昭和三三年当時においては、全司法に所属する職員が出勤猶予時間内に組合活動を行うことはもとより、午後の勤務時間にくい込む組合活動を行うこともすべて当局によつて容認され、当時、これらの組合活動をしたことを理由に懲戒処分を加えないという労働慣行が確立していたと主張するので、この点について検討するに、成立に争いのない甲第六四ないし第六七号証と弁論の全趣旨を総合すれば、全司法の在京支部に所属する職員が昭和二九年一二月四日に、同大阪支部に所属する職員が同月三日及び四日の両日にわたり、いずれも定時出勤と称して午前八時四、五〇分頃までに及ぶ集団登庁を実施し、全司法広島支部に所属する職員が昭和三二年三月二七日に午前八時五〇分からの一斉登庁を実施し、また全司法の在京支部に所属する職員が昭和三二年三月一四日午後〇時一五分から午後一時一五分にかけて全司法の中央総決起大会を実施し、右の在京支部に所属する職員が昭和三三年九月一五日午後〇時一五分から午後一時二〇分にかけて職場大会を実施したが、これらの組合活動に参加した職員に対しては懲戒処分がなされなかつたことが認められ、この認定に反する証拠はない。しかしながら、一般職たる裁判所職員の勤務時間が最高裁判所規則によつて午前八時三〇分から午後五時までと定められていたことは前記認定のとおりであり、職員は、その勤務時間内(但し、右最高裁判所規則所定の三〇分の休憩時間をのぞく。)においては、与えられた職務に専念すべき義務を負う(国公法一〇一条参照)のであつて、この義務は、前記のように出勤猶予時間の設定によつて免除されるべき性質のものではないのであるから、たとえ前記認定のように勤務時間内における組合活動に参加した職員に対して懲戒処分が加えられた例がなかつたからといつて、その一事によつて勤務時間内における組合活動が容認されたといえないことは当然であるし、また、職員の勤務時間につき、すでに前記のように最高裁判所規則の定めがある以上、これと抵触する労働慣行が成立する余地がないことも明らかである。従つて、第一審原告らのこの主張は理由がない。

2 次に第一審原告らは、第一審原告田戸、同白沢、同田中、同小原、同岡野及び同野宮らは本件職場大会当日いまだ出勤していなかつたから、その際に発せられた職務命令に従う義務がなかつたと主張するのであるが、すべて職員は、最高裁判所規則の定める午前の勤務開始時刻の到来によつて、当然にその職務に従事すべき義務を負担するにいたるものであつて、この義務負担の関係が職員が出勤したかどうかにかかわらないものであることは前判示のとおりであるのみならず、本件職場大会は、前記認定のとおり、本館正面玄関前において、他の職員又は訴訟関係人らの入庁を妨害する形態をもつて勤務開始時刻の午前八時三〇分以後にわたつて続行されたものであり、本館正面玄関及びその附近が本館庁舎内部とほぼ同視できる位置関係にあることは、当裁判所に顕著な事実であるし、前記認定のように、右の第一審原告らが当局の事前の警告を無視して本件職場大会に参加するにいたつた経緯に鑑みれば、右の第一審原告らは、当日の勤務開始時刻までには、右のような位置関係にある本館正面玄関前に到着し、勤務開始時刻の到来とともに、直ちに、その職務に従事し得る態勢にありながら、ことさらにその職務に従事しなかつたものであることは明らかである。従つて、当局が本館正面玄関前における妨害を排除するため、右の第一審原告らに対し解散を命じ、更に、所定の職務に従事するよう職場復帰命令を発出したのは、極めて当然の措置というべきであつて、右の第一審原告らがこれらの職務命令に従う義務がなかつたということはできない。従つて、第一審原告らのこの主張も亦理由がない。

二  国公法九八条五項の規定の合憲性

国公法九八条五項の規定が憲法二八条の規定に違反しないこと及び第一審原告らの主張する限定的解釈論が採用し得ないものであることは、すでに述べたとおりである(原判決四六枚目表一行目から四八枚目表六行目までなお、同所に掲げた裁判例のほか、国公法九八条五項と同旨の規定である地方公務員法三七条一項、公共企業体等労働関係法一七条一項の各規定に関する最高裁大法廷昭和五一年五月二一日判決、刑集三〇巻五号一一七八頁及び同五二年五月四日判決、刑集三一巻三号一八二頁参照)。従つて、第一審原告らのこの主張も理由がない。

三  懲戒権の濫用

第一審原告らは、第一審原告木村らをのぞく第一審原告ら及び訴外木村が裁判所職員であつたことの故に、ことさらに重い懲戒処分がなされた趣旨を主張するのであるが、本件全証拠を検討して見ても右の事実を肯認し得る資料は存在しないのであるから、右事実の存在を前提とする第一審原告らの主張は理由がないし、第一審原告木村らをのぞく第一審原告ら及び訴外木村に対する本件各懲戒処分が裁量権の濫用に当らないことは、すでに述べたとおりであつて、第一審原告らの懲戒権の濫用に関するその余の主張も亦採用の限りではない。

(結論)

以上のとおりであるから、第一審原告木村らの第一審被告東京地方裁判所に対する本訴各請求を認容した原判決は不当であるから、これを取消して右の各請求を棄却し、その余の第一審原告らの本訴各請求につき趣旨を同じくする原判決は相当であるから、右の第一審原告らの本件各控訴は、いずれもこれを棄却することとする。

第三よつて、民訴法九五条、九六条及び八九条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 田中永司 原島克己 岩井康倶)

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